【かがわ文化芸術祭2024・かがわアート塾】SATOMI ART SCHOOL 40th Anniversary展
かがわ文化芸術祭実行委員会では、主催行事「かがわアート塾」として、同祭の参加公演・行事の中から、長く継続している顕著な活動を選定し、その公演・行事を題材として文化芸術活動の魅力を再発見する講座「かがわアート塾」を実施しています。
今回は、今年、選定された参加公演行事「SATOMI ART SCHOOL 40th Anniversary展」をご紹介します。
活動40周年を迎えたさとみアートスクールが主催する本展は、2024年10月13日、14日の二日間、サンポートホール高松1階市民ギャラリーで開かれました。約40点に及ぶ個性たっぷりの作品たち。全員の絵が生き生きと見えるようにと工夫して並べられた会場には、多くの懐かしい笑顔が集いました。
さとみアートスクールは、子どもたちへの絵画制作指導を中心に40年もの間、活動を続けています。主宰者の三好里美さんが、25歳のころに高松市内の貸部屋で、周辺に住む6人の子どもたちに絵を教えることからスタート。40年目の節目を迎えた現在の生徒数は約70名。卒業生は数千人にのぼり、長く愛され続けているアートスクールです。
さとみ先生は、高松市のご出身。香川県立高松工芸高校デザイン科、大阪芸術大学グラフィックデザイン専攻科を卒業後、広告会社に勤務し、香川県内の大手企業や銀行、行政のポスター制作などを多数手掛けられました。
退職後、1985年に香川県高松市で絵画教室を開講。未就学児から年配の方まで、幅広い年齢の方々に指導を続けられ、コンクール受賞者も数多く輩出してきました。
きれいに描けなくていい。勝手に描きなさいと言う。
「たのしく、自由に。はみ出していいと言っている。」
指導のこだわりを伺うと、このように教えてくれました。
「わたしは作品に手は加えない。大人の絵は線がきれいになっちゃう。それってよくないじゃない?あえて手は加えない。ちょっと行き詰まっていたら、こうしたら?って提案するだけ。」
今回の作品展の入口の目立つ位置に飾られていたこちらの作品。世界児童画展で特別賞を受賞した5歳児の作品「ダンゴムシ」。実は、たったの5分で描いたという驚きの裏話を明かしてくれました。
さとみ先生「僕終わったーって言うから、それでいいよって。」
子どもたちの自主性を重んじた指導方針は、このようにのびのびと描かれた子どもたちの作品からも伝わってきます。
こうした指導方針が形成されたのはさとみ先生が大学時代のこと。
「私の恩師は自分で点数をつけなさいと言う教授で、自分で申告したそのままの点数をくださる教授だったの。」
また、大学時代のこんな興味深いエピソードも話してくれました。
「私はデッサンが大嫌いで自画像の描きすぎで真っ黒に描いちゃったことがある。そうしたら教授が、すごい点数をくれたの!
”君はがんばっていた、真っ黒になるまでがんばっていたから“と言われて、びっくり!
“形も何もなく、君は真っ黒になるくらいがんばった”と言われて。大学はそんな教授ばかりがいる環境だった。形は無い、がんばりを認めてくださる。」
ご自身が指導する立場となったとき、当時の教授がかけてくれた言葉と同じように、子どもたちの完成した作品の評価よりも、その制作過程を認め、褒めているさとみ先生。
「きれいに描けなくていい。きれいに描こうとしたら緊張した絵になる。自由が無くなる。だから勝手に描きなさいと言うの。」
この日、受付スタッフとして運営のお手伝いをしていた卒業生の女性にさとみ先生の印象を聞いてみました。
「先生はパワフルな印象ですが、いい意味で手を差し伸べすぎない。尊重してくれるので、そういう点ですごくのびのびと純粋に絵を好きになれる時間を過ごせると思う。」
実は彼女は今回、さとみ先生に会いたいからお手伝いに来たと言い、さとみ先生の「常に好きなことをまっすぐやり続けているところ」に憧れがあると話してくださいました。
「小学1年~6年まで油絵を習っていた。そこで初めて好きになったマグリットに衝撃を受けたことが今も大きい。画集などの本がたくさんあって、画集に限らず写真集などもたくさんあり、自分で開いて見つけていく中で、彼の作品と出会った。先生のところに通っていなかったら多分本当に知らない画家だった。」
1か月あるかないかで仕上げたというこちらの作品。仕事をしながらの作品作りについては、筆を取っている時は肩の荷が下り、リフレッシュの良い時間になったと話してくださいました。
みんな自由に描いていただけ。
この日、会場を訪れていた人の多くは、子どもの頃にさとみアートスクールに通っていたという卒業生やその保護者でした。
卒業生の中には、医師や弁護士、音楽活動をしている人も多いそうです。
さとみ先生「これまでを振り返ると個性的な子どもが多かった。図鑑を見はじめたらずっと図鑑を見ていて、絵を描くのは10分ぐらい。絵を描かずに机の下にもぐっている子などもいた。自由奔放に見えた子ほど、医者などの立派な職業に就いているから不思議。東京大学へ進学した子や劇団四季に入団した子など、それぞれの世界に羽ばたいているのが楽しい。」
この日、親子で来場されていた30歳の男性は「久々に母と先生に会いにご挨拶だけでもと思って来た。」ということで、20年前に母親に連れられてさとみ先生の元に通っていたそうです。
「小学生の頃、あまり絵に興味はなかったが、先生が優しかったので楽しく絵を描いていた。
熊のぬいぐるみ、置物を先生に手伝ってもらって描いた。当時の作品は現在も額縁に入れて家に飾られてる。先生の人柄がおすすめ。やさしくニコニコ教えてくれるのが良かった。」
レッスンは子ども対象でしたが、次第に保護者にも「わたしも描きたい」と熱望されるようになり、親子でレッスンに通っている方もいるのだとか。
「こどもの習い事に絵画教室を選ぶお母さんたちの感覚がね、普通は学習塾やスポーツの習い事が優先されて、アートは最後に選ばれるもの。教育熱心でゆとりがあるように感じる。」
「65歳の今も、動いているから動ける。40年を迎えただけでもすごい、子どもたちには夢や、自分でやったよという充実感、満足感を感じて欲しい。満足感を得て、世界に羽ばたいて欲しい。世界情勢は大変ですが、スペインやシカゴに行っている子もいる。人のために何かできる人間に育ってほしい。お医者さんが多いのもそれかなと思っている。」
40年を祝福するたくさんの花で彩られていた会場は、パワフルなさとみ先生の40年分の愛と感謝が溢れていました。
SATOMI ART SCHOOL40th Anniversary展