COLUMN コラム

コラム Vol.5

美しさと伝統の技が冴える香川漆芸の魅力に迫る!

「香川漆芸」見たことある?

香川漆芸は、江戸時代後期に新しい技法として確立された香川を代表する伝統工芸。 
それは知識として何となく知っているけれど…実はあまり馴染みが無いという方も意外と多いのではないでしょうか?
これだけインバウンドに代表される観光客が街にあふれる今、せっかく香川県に来られたお客様に香川県民として、地元が誇る香川の漆芸の魅力を語れるようになりたい!

そこで、香川県民として知っておくべき「香川漆芸」の魅力に迫るべく、高松市番町にある香川県漆芸研究所を訪ねました。

「研究所」という名前ですが、伝統ある香川漆芸の技術の伝承、後継者の育成を主な目的とする研究教育機関です。
今年で、創立70周年を迎える漆芸研究所では、なんと、入学金や授業料は無料!
研究生として、3年間で技術を学びます。

この日はちょうど、オープンキャンパスが開催されており、香川県漆芸研究所に研究生として入所することを検討している人達が全国各地から訪れていました。参加者らは、7階建ての施設内各所をまわりながら、実習風景等を見学し、香川漆芸への理解を深めていました。

そもそも、香川漆芸とはどのようなものなのか。
恥ずかしながら、香川県民なのにその知識がほぼゼロに等しい筆者も、オープンキャンパスに一緒に参加させていただき、やさしく教えていただいてきました。あなたもこの機会にぜひ読み進めながら知識を深めてみてくださいね。

香川の漆芸は、江戸時代以来200年近い歴史があり、独自の技法で生活品から高級家具、美術工芸品に至るまで様々な漆器が作られています。

1階香川漆芸ホールには、香川が誇る漆芸作品が常設展示されていて、誰でも無料で観覧することができます。
毎回テーマを決めて展示されており、様々な所蔵作品が鑑賞できます。
ここは年末年始を除く、土日祝日も観覧できるので、気軽に香川漆芸を鑑賞できますよ。
また若手漆芸作家の作品展示販売コーナー(ショップ)もあり、日常使いできそうなカトラリーなどがショーケースに品よく並んでいました。特別な贈り物としても喜ばれそうですね。
 


これ読める?「蒟醤」「存清」「彫漆」
知っておきたい香川の三技法

この漢字の読み方が分かったあなたは、さすがです!(筆者はひとつも読めませんでした…)
全国に誇る香川県の伝統的な漆工芸の技法である「蒟醤(きんま)」「存清(ぞんせい)」「彫漆(ちょうしつ)」。
この3つの技法それぞれの違いを実際に触って確認できる展示が香川漆芸ホール内にありました。

■蒟醤(きんま)…漆を塗ったところに刃物で彫り込みを入れ、その溝に色漆を埋め込んで、表面を平らに研ぐ技法。

■存清(ぞんせい)…筆を使って色漆で文様を描き、刃物で文様の輪郭や細部を彫ります。輪郭のところにさらに彫りを入れるのが特徴。盛り上がっていたり、彫られていたりするデコボコ感が感じられます。

■彫漆(ちょうしつ)…何回も塗り重ねた色漆(100回で厚さたったの約3mm)の層を彫り下げて下の色を出して模様を表現していく技法。触ってみると彫り下げていることが感触として分かります。

この3つが香川で生まれ、発展してきた香川ならではの技法ということです。

全国各地には様々な漆器がありますが、香川漆芸の特徴は2つ。
「彫り」と「色彩(しきさい)」。
漆器というと刷毛で漆を塗って、色は黒色や朱色というイメージではないでしょうか。香川漆芸は塗りに加えて「彫る」という工程があることと、鮮やかな色漆を使うところが大きな特徴です。

 

研究生は普段どんなことをしているのか?


漆芸研究所5階に上がり、「存清」実習室で研究生3年生の嶋岡勇太さんにお話を伺いました。もともと物を作ることが好きで工芸コースを選んでいた嶋岡さん。山形の大学で漆を学んだ後、漆芸研究所に入所。漆の樹液をとる体験をした時に、自然の力をビシバシと浴びて、漆っておもしろいなと感じ、そこから漆の世界へ入ったのだそう。

漆とは、漆の木から採取した樹液。はじめは乳白色で1本から200mg程度しか採れないものです。

砥の粉や地の粉という土のようなものを生漆(きうるし)と混ぜて下地工程をします。
色漆をたくさん使うのが香川漆芸。
塗って、研いで、塗って、研いで…をひたすら繰り返し、最後に艶を出す。お話を聞いているだけで気の遠くなるような工程です。

実習室には1人1つ専用のデスクがあり、嶋岡さんも毎朝8時30分にここに来て、自分の課題をして、さらに家に帰ってからも制作をしているとのこと。そんなに夢中になれるなんて…漆芸の魅力とは一体どんなところなのでしょうか?

嶋岡さん「下地工程は大変ですが、全面に塗ると、漆の良さが見えてきて楽しい。(筆者が問い詰めると)実は時々めんどくさいなと思う時もあるけれど、作業を進め、段階を踏んでいく過程が楽しい。」

漆は乾くのに時間がかかるので、1日にひとつ仕事ができる程度で、制作にはいろいろな工程があるため、半年ほどかけてやっと完成するもの。完成した作品を見るのは、それはもう至極の喜びなんだそう。まさに、情熱がなせる技ですね。

実習室の中には、2つの小部屋もあり、メインの漆を塗る仕事のときは、「塗部屋」へ移動。自分で色を作り塗ります。そして塗ったものは湿度80%(季節により調整)のムロに入れ固めていきます。
もう一つの「上塗室」は、塗る時にホコリが付かないようにするための隔離部屋です。
のこぎりや、大きなやすり、サンドペーパーなどの見慣れない道具がたくさん並ぶ実習室を次々と紹介してくれた嶋岡さん。改めて香川県漆芸研究所の魅力を聞いてみました。

嶋岡さん「課題以外でも聞けば先生がなんでも教えてくださるところ。毎日やっていても分からないことだらけ。頭で分かっていても、出来ないことの方が多い。まだまだ分からないことが多く、勉強になることばかり。将来は、ずっと漆に関わっていたい。高価なものという印象を持たれているが、知ろうとしないと分からないことも多いので、ぜひ興味を持ってほしい。」

日本で一番古く、歴史ある香川県漆芸研究所。
なんと、人間国宝の先生方をはじめ各分野でトップクラスの講師陣から日々技法を学んでいるそうです。
1年生ですべての技法を学びます。
嶋岡さんは、過去に課題で制作したというカラフルなご自身の作品をスマホ画面で見せてくださいました。実物のツヤはもっと違って見えるそう。43回も塗り重ねて大変だったという作品や、白、黄色、青を塗り重ね、最後に彫っていく彫漆という技法、鮮やかな丸盆、竹の厚みと幅を均一にして編んだ「籃胎(らんたい)」という作品などを楽しそうに見せてくださいました。どれも素敵な作品ばかり。

漆作品を見る時のポイントを尋ねると、
嶋岡さん「ポイントはツヤ。漆特有のツヤを見て、ぜひ興味を持ってほしい。なぜ、香川で漆が栄えたのか?興味をもって、気になったらここに来ていただけたら。」と話してくださいました。

実は、香川県漆芸研究所に事前に電話で申込みをすれば5階~7階の実習室の見学をさせていただけるそうです。せっかく来たならぜひ制作風景も見ておきたいですね。
 


香川漆芸の制作を体験してみよう

オープンキャンパスでは、「彫り」を体験するプログラムもあり、参加者らと共に体験をさせていただきました。

実際にやってみると、コツを掴むまでが難しい。研究生にサポートしていただきながら初めての挑戦です。まずは刃物の持ち方から。

研究生「面を進行方向に向け、寝かさずに。鉛筆の持ち方というよりは、筆を持つイメージで。まっすぐ押す。」

言われた通りにやってみるものの、か、か、固い…。彫刻刀が全然動かない。他の参加者も「漆に持っていかれる感じ」と苦戦しながらも夢中になって取り組んでいました。

研究生「コツは、上を撫でてあげるイメージ。両手を使い、右手で支え、左手の親指で押す感じでやってみると出来ます。」

縦にまっすぐ線を引くのは難しく深く刻むことができません。ちょっと撫でる感じを何回か繰り返すとだんだん深くなっていきます。
体験してみて初めて夢中になる理由が分かりました。

研究生(2年生)「彫りが楽しい。普段しないことは新鮮で楽しい。」

研究生(1年生)「完成品しか見たことがなかったが、教えていただいてこんな風に出来ているのかと発見する瞬間が楽しい」

香川県漆芸研究所では、令和7年度入所の研究生を10月から募集します。35歳までの方が入所することができ、ここで3年間、一流の講師陣から指導を受けながら香川漆芸の技と心と伝統を学ぶことが出来ます。
現在は研究生が21名在籍しており、とても仲が良く和やかな雰囲気でした。その理由は、学年ごとではなく、技法によって実習室が分かれているから。
人間国宝の先生をはじめ、各分野でトップクラスの先生から技法を学ぶことができるため、修了生の多くは漆芸作家として活躍されています。

また、毎年夏休みに合わせて、小学生親子漆芸体験教室が行われています。今年7月に開催された体験教室にも約20組の親子が参加し、色を塗り重ねた彫漆を使って自分で彫りを入れ、研究生にサポートしてもらいながらコースターづくりを楽しんだそうです。

子どもたちも夢中になる漆芸体験。募集をするとすぐに満員となる、大人気の体験教室です。今冬には一般の方を対象にした教室を開催予定とのことですのでホームページ等をチェックしてくださいね。

あなたもぜひ香川の漆工芸の拠点、香川県漆芸研究所に足を運んでみてはいかがでしょうか。

 

~お知らせ~

香川県漆芸研究所では令和7年度の研究生を10月から募集します!
詳細はこちらからご覧ください!